今日は休日だった。冷え込んだ朝だったが、柄にもなく早々に起きだした。
どうしたの？と、目を丸くする母親の問いに、ちょっと、とだけ答え、
朝食もそこそこに家を出た。外は晴れてはいたが、すっきりとした秋風が
強く吹いて、ペダルを漕ぐ足にも自然と力がこもった。
少女は今日もいるだろうか…。
僕はあの小径へ行ってみるつもりだった。


　湿原の木立まで来ると、少女の姿はなかった。僕はがっかりした。
何となくだが、今日も居るような気がしていたのだ。息を整えながら、
辺りを見回してみた。すると、湿原と向かい合った林の中に、チラっと
白いものが見えた。僕はまっすぐにその白に向かって歩き出した。


　苔むした林の中はまだ薄暗く、ツンと青臭い匂いがした。白い服の少女は
大きな木の根元に、もたれるように腰掛けていた。僕が近づいても動く気配はない。
その様子は眠っているようにも見えた。
「ねぇ君」
思い切って話しかけると、彼女は初めて物憂げな瞳をこちらに向けた。
そして夢から醒めたように、瞳をしばたたかせた。初めて僕に気付いたようだった。